私の帰る場所

母と一緒にいることがとても気まずかった。

高校卒業後の進路のことを考えていた頃。

 

これまで母一人の収入で私たち4人きょうだいを支えてきてくれた。

進学せず私が働いた方が、絶対に家計は楽になる。

そう思っていたのに、母は私に大学進学を勧めてきたのだ。

私の気持ちは誰にも聴かれることなく、私の奨学金の保証人を誰にするかで、家族で論争になった。

そもそも本人が大学に行きたいなんて思っていないのに

「自分のことなんだから真面目に考えろ」って言われて。

みんな誰のためにアツくなっているんだろう。

 

結局、母の涙に負けて私は大学に進学することになった。

 

大学生活は意外と楽しかった。

素敵な先輩との出会い、アルバイト。

色んな価値観を持った人と話することがとても刺激的だった。

 

苦手だった人づきあいが、いつの間にか楽しいと感じられるようになった。

 

就活が始まった時、母は意外にも

「自分のやりたいことをやりなさい」と言ってくれた。

 

就職が決まり、私は一人暮らしを始めた。

慣れない土地での慣れない仕事は

寂しさを感じる余裕すら与えてくれなかった。

 

少し仕事に慣れてきた頃、出張のついでに実家に寄ってみることにした。

 

母は、私に昨日あったたわいのない出来事や、大好きな関ジャニ∞のライブの話を学生時代の友達のように話してきた。

こういうときは、「仕事はどう?身体はしんどくない?」とか聞くんじゃないの?

 

ひとしきり話した後、母は、「聞いてくれてありがとう」と言った。

ほんとうは寂しかったくせに

母はまた、「自分のやりたいことをやりなさい」と言った。

 

家にはまだ私の食器も布団も、歯ブラシも全部おいてあった。

自暴自棄になっていたこともあったけど

「自分のやりたいことをやりなさい」という母の言葉は

「あなたにはかけがえのない価値がある」っていう意味だったのかな。

 

「ここに帰れる場所がある。私を大切に思ってくれる人がいる」と思えるから、私は明日もがんばろうって気持ちになる。

他ならない価値ある自分のために。

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